国際的な経済活動は国内の活動同様、交換の媒介としての通貨の使用が必要となる。様々な法的規制によってその流通をある程度まで強制し得る国内通貨と異なり、国際的取引手段としての通貨の盛衰は「見えざる手」の働きによって決まるところが大きい。当課題の下での一連の研究では、価値が内生的に定まる不換紙幣の取引手段としての役割を不完全市場の枠組で分析した。 1つの研究(共著者:林文夫)ではまず、国家の法的介入がない国内通貨に関する分析を行った。ここでは通貨を介した取引と物々交換とが競合する経済を考え、インフレ率と取引形態、パレート最適性との関係等に関する分析を行なった。具体的には均衡の性質を考えることから分析を始めた。まず通貨が存在しない場合の均衡とその下での物々交換の交換率を考える。次に貨幣も交えた経済を考えた時に、この交換率がインフレ率を超えている財同士の間では物々交換に加え、貨幣的取引が行われることが判った。また、物々交換の余地が存在しない均衡は市場の不完全性にもかかわらずパレート最適となることも示された。 次の研究ではこれを2国モデルに拡張し、通貨体制の問題を分析した。この研究はまだ継続中であるがすでに興味深い結果が得られている。その1つが鎖国と自由貿易との比較で弱い-すなわち国際取引手段に用いられない通貨を持っている国にとっては鎖国状態の方が望ましい、というものである。この結果は凸経済で価格の歪みがないならば、自由貿易が各経済の社会更生を増加させるという一般の信念を覆すものである。とはいえ、その理論は至極単純である。「弱い」国が開国すると「強い」国の通貨を用いて、貿易をすることとなる。相手国の発行した通貨を手に入れるために働くということが個人的には最適となるが、社会的に見ると「ただ働き」になってしまうため-国全体の厚生は低下するわけである。
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