当研究では数種類の通貨が国際通貨として、競合するような状況を考察するためのモデルを構築し、その分析を行った。モデルとしては不完備市場の理論を応用したものを構築した。各国には戦略的なプレーヤーとして扱われる政府がおり、それぞれの経済では不完備市場が成立している。各国政府は通貨の供給と税率をコントロールすることで、自国通貨で測ったインフレ率や、公共財の供給量に影響を与える。プレーヤーとしての政府間での競争、および各国の通貨体制の均衡に与える影響の分析を行ったところが、当研究の最大の成果である。具体的な分析結果の一例を以下に挙げておく。一般の貿易理論と異なり、輸出入の自由化よりもこれを制限する鎖国のほうが、「弱い」通貨を持っている国にとっては望ましい。もちろん、貿易利益があるより一般のモデルに拡張した場合、貿易利益と当論文から導かれた貿易の不利益との間にトレードオフが生じる。 1つのモデルの完成はしかし、新たな問題を生む。近年のアジアの通貨危機とも関連するが、通貨の持つ慣習としての側面の重要性が研究の過程で次第に明らかになってきた。通貨は人々が信任するからこそ、価値を持つことができるからである。複数の通貨がある場合はなおのこと、通貨の選択も含めて、大きな問題に発展していく。この慣習の問題の研究はまだ端緒についたばかりであるものの、通貨に限らず、経済の商慣行とも関連する。現時点では、別掲した発表論文との関連で、貸し渋り問題の研究も始めており、今後のより一層の研究の必要を感じている。
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