本年度の業績は主に以下の2つである。まず、「あすか」によってz=1の非常に遠方の銀河団を検出したことである。これはz=3.27のQSOが重力レンズ効果を受けていることが光学観測から検出されていたことから、重力レンズを起こしている対応天体をX線天文衛星「あすか」で観測したところz=1に候補天体が検出された。その後ROSAT衛星で観測したところ拡がった放射が検出され、対応天体はz=1の非常に遠方の銀河団であることが判明した。この銀河団は温度が10keVと非常に高く、z=1という初期宇宙でも十分な重力収縮が行われていたことを示した。また、鉄の存在比が宇宙組成と同じであることが分かった。近傍の銀河団が宇宙組成比の0.3倍に過ぎないことを考えると非常に興味深い結果である。この結果はNatureに投稿論文として発表され、さらに新聞発表を行い、第一面に掲載された。もう一つは、z<0.1の銀河団、z=0.1-0.6の銀河団、及び前述のAXJ2019+1127を含むz>0.6の銀河団との比較から、z=0.1-0.6では大きな進化は見られない一方で、z>0.6で大きな進化を遂げている可能性があることが分かった。温度ガス質量関係で比較した場合、遠方銀河団は同じ温度の近傍に比べ数倍程度ガスが少ないことが分かった。また、近傍銀河団はβモデルで合わせた場合、β=0.6であるのに対して、遠方銀河団はβ〜1とコンパクトな形をしていることが分かった。これはX線として初めて銀河団の進化を捕らえた結果であり、1997年8月のIAU総会のシンポジウムHot Universeで口頭発表を行い、現在投稿論文としてまとめつつある。来年度の最初の目標は、この結果を4月中にサブミットし、投稿論文としてアクセプトされることである。
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