銀河団の高温プラズマ(ICM)の性質はz<0.1と0.1<z<0.6のそれぞれの時期でほとんど違いが見られない。しかし、宇宙論的な研究から明らかなように、銀河団が平坦な宇宙から重力的に収縮し進化しているのは疑い無いとすれば、z>0.6のどこかの時期で近傍銀河団と性質が違う銀河団が見つかってくるはずである。その意図から我々はz>0.6の銀河団としてz〜1のAXJ2019+1127を観測したところ、近傍銀河団とは著しく違う性質を示すことが分かった。まず、銀河団の高温プラズマの量が少なく、近傍銀河団の1/5〜1/2に過ぎない。このことはz=0.6〜1附近で銀河団の収縮が進んだ可能性を示している。一方、この銀河団は近傍の銀河団に含まれる鉄とほぼ同量含んでいた。これはz〜1までに銀河からICMへの鉄の放出が終了することを示している。 この鉄放出メカニズムを探るために、初期銀河のプロトタイプとして考えられているスターバースト銀河のうちM82を「あすか」で観測した。その結果、(1)プラズマに特有の輝線を検出し、スターバースト銀河で確かにプラズマが生産されていることが判明した。(2)しかし、そのアバンダンスは小さく、いずれの重金属でも宇宙組成の0.3倍以下であった。しかも、銀河団のプラズマで最も特徴的な鉄に関しても宇宙組成の0.1以下であり、銀河団の0.3を下回る。(3)このことは、スターバースト銀河で生産される重金属量では銀河団に含まれる重金属を説明できないことを示す。これは現在のスタンダードなシナリオを否定する重大な結論である。(4)一方、3keV以上のバンドで時間変動を検出した。これはM82にAGNが存在する確かな証拠である。この結果は、スターバースト活動からAGNが誕生する可能性を示す。
|