実は、デジタル・スカイ・サーベイは専用望遠鏡の主鏡の製作が遅れており、まだ実施されていない。そこで、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)やケック望遠鏡によるデータを中心にしてクェーサーの吸収線系の研究を行った。 まず、HSTによって明らかになったライマン・アルファの吸収線と銀河との相関を説明するために、熱いガスが広がる銀河ハロ-中に存在する雲をモデルに採用し、その安定性解析を行った。その結果、雲は、銀河ポテンシャルの潮汐力成分による破壊と周囲の高温ガスからの熱の流入による蒸発効果のために、10億年以下の寿命しかないことがわかった。つまり、銀河ハロ-中の雲は、この吸収線の良いモデルとはなり得ないのである(この結果は論文として投稿中)。 次に、ダ-クマタ-の重力でガスが閉じこめられたミニハロ-・モデルにより、背景紫外線放射を受けた場合に、通常の銀河として収縮する雲、いったん膨張してから収縮して矮小銀河となる雲、膨張したままでライマン・アルファの吸収線系として観測されている雲の、それぞれの臨界質量をシミュレーションによって求めた。併せて、観測によって得られている吸収線系の数分布が、これらの雲のモデルと整合するためには、いかなる質量関数でなければならないか、暗黒物質がどれほど存在しなければならないか、の許容範囲を推定した。この結果は、冷たい暗黒物質のモデルとよく整合することがわかった。これらの結果は、現在論文としてとりまとめている。 また、金属の吸収線系において、炭素と珪素の存在比が太陽組成と異なるという指摘があったが、これまでのデータを詳細に検討して光電離モデルと照合した結果、特にそのような元素組成の異常を考えなくても良いことを明らかにした。この結果は、既に出版されている。
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