化合物半導体Inpの格子核^<115>Inについて、パルス核磁気共鳴法による自由減衰信号を観測して、約3Kで動的自己核偏極相転移が生じていることを確認した。2.3Kでの核スピン偏極度は約30%であった。3Kの相転移温度は電子のスピン緩和の影響を受けたものであり、緩和の影響を無視して、超微細相互作用(HFI)のみの大きさから予想される相転移温度約5.4Kよりも低い。この結果はまた、以前の不安定核^<114>Inについての結果とも照応するものである。相転移温度以下での、特に2K付近での核スピン偏極度は全体として30%程度であるが、ドナー原子を中心とする領域では50%を越えていると予想され、スピン温度に換算すると、10^<-6>K以下となっている。レーザーを照射して核スピンの偏極を生成している段階では、HFIが大きく寄与し、磁場を100G以下に下げれば、双極子相互作用の効果とHFIの競合による秩序状態の実現が期待出来る。また、双極子相互作用のみによる秩序状態の実現は、100G程度で核偏極を生成したのちレーザーを切ってHFIを無くした上で、局所磁場(数G)まで断熱消磁してやれば、可能であると考えられる。実際この場合に予想される達成スピン温度は10^<-8>K程度である。 このような核の秩序状態の実現の観測には、自由減衰振動は不利であり、早い断熱通過(AFP法)の観測がより適当である。このため、AFP法の観測系を整備した。また、格子系をより低温にするために、液体ヘリューム3による冷却クライオスタツト系も整備した。これらの装置系により、動的自己核偏極法であらかじめスピン温度を下げておき、核断熱消磁で更に冷却して、従来の方法よりも簡便に、核の秩序状態の実現を目指している。
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