研究概要 |
1)シクロデキストリン中のヨウ化第2スズのクラスター状態 ヨウ化第2スズは物性研究がほとんどなされていない物質である。単結晶の1.6Kにおける低温での測定結果から、その励起子はフレンケル型とワ-ニア型の中間的なもので、エネルギー帯間エネルギーがおおよそ3.48eVと見積もられた。また、スピン軌道相互作用による分裂が同定され、ヨウ化第2スズの価電子帯がスズ及びヨウ素との混成軌道から成るなることが明らかにされた。以上の結果と、低温におけるシクロデキストリン中のヨウ化第2スズの吸収スペクトル測定結果から、クラスター状態のヨウ化第2スズの電子準位が孤立分子のそれにちかいものであることが明らかにされ、分子軌道準位が同定された。 2)シクロデキストリン中のアントラセンの超分子状態 アントラセン分子間のファンデルワールスカによる相互作用では、面と面が向き合う配置よりも、お互いに直交する配置の方が安定な配位であるということである。この様な分子間力をもつアントラセン2分子を、筒状分子であるγシクロデキストリンに挿入すると、両者は狭い筒の中で面と面とが向かい合う形で配置する。この状態で光照射による分子内励起をすると、分子内の2重結合の解離が起こって2分子間に新たな化学結合状態ができる。その結合がどの位置にできるのか等不明な点が多かった。 われわれの研究グループの行った実験結果と、東北大学金属材料研究所の川添良幸教授等による分子動力学的な最適化計算により、2分子のアントラセンがシクロデキストリン中で光励起された場合には、両方のアントラセンの中央のベンゼン環が励起されて、その結果、9,9'及び10,10'サイトで結合を形成することが明らかにされた。この様に、実験及び理論的なシュミレーションの両面からの研究の結果、超分子形成のダイナミックスを明らかにすることができた。
|