亜酸化銅は電子と正孔がクローン力でゆるく束縛した水素様のいわゆるワニア励起子系列が観測される教科書的な半導体である。これまでの分解能の高い分光学的研究により、質の高い試料においては、かなり大きな主量子数の励起子状態が安定に存在することが明らかになっている。本研究の目的は、この亜酸化銅の大きな主量子数の励起子状態およびボ-ス・アインシュタイン凝縮に関して活発な研究や議論がなされている1s励起子状態の特性を、これまでにない高分解能、高感度の分光装置を開発することにより明らかにすることである。平成9年度の研究実績は以下のとおりである。 1.実験の精度感度を上げるため、既存の高分解分光器と新規に購入した高感度光検出装置を組み合わせた分光システムを試作した。 2.赤外レーザー光源の安定性、安全性のため、Qスイッチの動作を監視し、自動でレーザー光出力にロックをかけるシステムを作った。 3.極低温での亜酸化銅の起電力や電気伝導を評価するシステムを試作した。 4.これらの装置により、亜酸化銅の励起子を一光子または二光子励起した場合に生じる光起電力や発光を計測し、その相関を調べた。これは、電極での励起子垂離に伴う起電力の発生を利用した励起子の検出およびその手法を用いて最近なされているパラ励起子のボ-ス・アインシュタイン凝縮の研究に対する知見を得る上でも重要である。実験の結果、励起子励起に伴う起電力の発生が高感度の検出されることが明らかになり、起電力をモニターする分光法の有効性を実証した。また、起電力発生と励起子励起の間にマクロな相関があることが分かり、その起源を追及している。なお、本研究の成果の一部はロシアのセントペテルスブルグで開催されたグロス教授生誕100周年を記念する励起子光学の国際会議で招待講演として報告された。
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