亜酸化銅は電子と正孔がクーロン力でゆるく束縛した水素様のいわゆるワニア励起子系列が観測される教科書的な半導体である。これまでの分解能の高い分光学的研究により、質の高い試料においては、かなり大きな主量子数の励起子状態(リュードベリ励起子状態)が安定に存在することが明らかになっている。本研究の目的は、この亜酸化銅の大きな主量子数の励起子状態およびボ-ス・アインシュタイン凝縮に関して活発な研究や議論がなされている1s励起子状態の特性を、これまでにない高分解能、高感度の分光装置を開発することにより明かにすることである。本研究の研究実績は以下のとおりである。 1.実験の精度感度を上げるため、CW・Qスイッチ・YAGレーザーを用いた高繰り返しの波長可変赤外レーザーシステム、および既存の高分解分光器と新規に購入したCCDカメラを組み合わせた高分解分光システムを試作した。 2.磁場中での赤外光二光子励起による励起子系列の精密測定から、3[s-d]、4[s-d]励起子の反磁性シフトの評価を行い、s、d励起子の同定を行った。 3.1sオルソ励起子の二光子励起に伴う光学過程および、それらとボ-ス・アインシュタイン凝縮との関連を調べた。 4.1sオルソ励起子の緩和機構について発光スペクトルの解析による考察を行った。 5.極低温での亜酸化銅の起電力や電気伝導を評価するシステムを試作した。これらの装置により、亜酸化銅の励起子を一光子または二光子励起した場合に生じる光起電力や発光を計測し、それらの相関を調べた。その結果、励起子励起に伴う起電力の発生が高感度に検出されることが明らかになり、起電力をモニターする分光法の有効性が実証された。
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