研究概要 |
遷移金属酸化物は結晶構造、酸素欠陥量及び金属イオンのd電子数がその物性に大きな影響を与え、それ故に多様な物性を示すことで知られている。本研究はこれらの酸化物の中でも光触媒作用で注目されている二酸化チタン(TiO_2)について結晶多形及び酸素欠陥が電子状態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。塩化アンモニュウムをtransport agentとした気相反応法により、これまで育成が困難とされてきたアナターゼ型単結晶の育成に成功した。ルチル型TiO_2結晶はfloating zone法で得た。ブロッカイトは鉱石を用いた。これらの単結晶を用いて(1)広いエネルギー領域(2〜25eV)にわたって偏光反射スペクトルを測定した。一方、クラスターモデルを用いた理論計算を行い、計算結果とスペクトルの対応から、各結晶構造に対する電子状態を決定した。育成したアナターゼ単結晶について以下のような知見が得られた(2)吸収端におけるスペクトルの温度依存性はア-バック則に従い、その係数から、励起子は自己束縛型であることが分かった。この結果はルチル(自由励起子型)と対照的である。(3)As-grown結晶で観測された自由キャリア吸収と酸素欠陥量の変化に伴ってバンドギャップ内に出現した偏光依存性のある吸収帯は、2MPaの酸素圧下800°C,60時間の熱処理で完全消滅する。この熱処理後は完全絶縁体となることから、ほぼ完全結晶が得られたものと思われる。(4)ブロードな発光帯が2.2eVに観測される。酸素処理過程によらない発光であることから自己束縛励起子からの発光と解釈した。(5)自由キャリアは電気伝導の温度変化から7meVのドナー準位(酸素欠陥)、18meVのアクセプター準位(TiO2:Al)が得られた。
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