研究概要 |
軽元素の等核2原子分子、H_2, O_2やN_2からなる分子性固体の圧力誘起金属化や分子解離の研究は固体物性学や化学結合論さらには惑星科学の見地から重要なテーマである。特に、固体酸素はその構成分子、O_2の基底状態が三重項の常磁性であることから高圧相の電気磁気的性質が注目されている。最近、95GPaの高圧下で固体酸素の反射スペクトルにDrude型の金属的な振舞いが観測され、金属酸素の存在が確実になってきている。 申請者らは [1]高エネルギ物理学研究所(KEK)と欧州放射光研究所(ESRF)の高輝度放射光源を用い、固体酸素の粉末X線回折実験をこれまで未踏の圧力領域であった151GPaまで行い、金属化が報告されていた圧力、96GPaで構造相転移を初めて観測し、この新高圧金属相(ζ)の結晶構造に関する知見を得、ζ相が151GPaまで安定であることを明らかにした。これまで構造が不明であったε高圧相の構造解析を行い、分子配向に関する知見を得た。 [2]ε高圧相の単結晶育成に成功し、この結晶が顕著な二色性を持つことを明らかにした。 [3]高圧ラマン分光をこれまで未踏の圧力領域であった110GPaまで行い、固体酸素の金属化を示唆する結果を得ると共に、O_2分子の伸縮振動(ビブロン)と秤動(リブロン)の圧力依存性を明らかにした。 [4]赤外吸収分光をこれまで未踏の60GPaまで行い、ε高圧相が2つの赤外活性ビブロンバンドを持つこと、各バンドのエネルギーが20GPa付近で極小を持ち高圧側で正の圧力依存性を示すことを明らかにした。また、4つの結合音の圧力依存性も得た。 以上のことから、20GPa以上の高圧下ではO_2分子の結合は圧力増加に伴い強まると見られ、高圧金属相はO_2分子から成ると示唆された。また、O_2分子の常磁性を特徴づけるπ*電子が酸素の金属化に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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