研究概要 |
本研究の目的は常圧下において,Cu^<2+>イオンの3dホール軌道が反強磁性的な整列をなすことから生じるスピンの強磁性結合が,高圧下において強磁性的軌道整列に変化して,スピンの反強磁性結合が生じることを実証することである. まず代表的な反強磁性軌道整列をなす2次元強磁性体K_2CuF_4に対する磁化率の温度変化を0〜10GPaの幾つかの圧力下で測定し,約9GPaで磁化率の強磁性的な温度変化が消失する事を確認した.この事実が圧力による軌道整列の変化,すなわち反強磁性的軌道整列から強磁性的軌道整列への変化,に由来していることを確かめるために,室温において0〜20GPaの範囲の高圧下におけるX線回析実験を高エネルギー研のSORを用いて行った.その結果9.5GPaで圧力誘起による鋭い構造相転移を発見した.この圧力は磁化率の圧力依存性で確認した,スピンの強磁性的結合から反強磁性結合への変化に良く一致している. 9.5GPa以上における結晶構造は,Jahn-Teller効果で歪んだCuF_6八面体の長軸がb軸方向に揃い,確かに強磁性的軌道整列が実現している。しかし当初予想した長軸がc軸き揃う構造とは違っていた.20GPaよりはるかに高圧では,この予想した構造への新たな相転移が起こることが期待される.K_2CuF_4以外の反強磁性的軌道整列を持つ化合物磁性体として,Rb_2CuF_4と(C_2H_5NH_3)_2CuCl_4についても磁化率の圧力依存性を測定した.その結果,Rb_2CuF_4とK_2CuF_4と同様に9GPa前後においてスピンの強磁性結合が消えることを見いだした.また(C_2H_5NH_3)_2CuCl_4ではわずか1〜2GPaにおいて磁性の急激な変化を発見したが,その詳細については現在実験を続行中である.
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