本研究ではヘリウム表面に乗せた2次元電子系の伝導度などの物性を利用してヘリウム3表面のダイナミクスを研究することを目的とする。今年度は伝導度測定とプラズマ振動の測定を行なった。 プラズマ振動の測定からは比較的早い振動数の現象に関する情報が得られる。今年度の実験では、ヘリウム4の上でマイクロストリップラインを用いてプラズマ共鳴が測定できることを確かめた。プラズマ振動は電子がウィグナー結晶を形成すると大きくその特性を変えることが分かった。この結束をもとに、ヘリウム3の上での実験を準備中である 他方伝導度の測定は常流動ヘリウム3及び超流動ヘリウム3の上で行なうことができた。常流動ヘリウム3(T>1mK)では2種類の温度領域が存在することを明らかにした。すなわち、20〜30mK以上の温度では2次元電子の伝導度は液体ヘリウム3の粘性率によって支配されており、温度の2乗に比例する。この領域ではヘリウム3準粒子の平均自由行程は短く、粘性は古典流体力学的に扱うことが許される。それに対して低温側では準粒子が表面で弾道的に散乱されるようになるため、伝導度は温度依存性をほとんど失うことが分かった。この領域に関しては外国人研究員として滞在中のYu.Monarkha氏との共同研究によって理論的な計算を行ない、実験と定量的に一致することが確かめられた。 今年度の最も大きな収穫は超流動ヘリウム3の上で世界でもはじめて2次元電子系の伝導度の測定が行なわれたことである。それによると、伝導度は超流動ヘリウム3中のボゴリューボフ準粒子の励起数にほぼ比例することが分かった。これは常流動ヘリウム3での結果とも非常に良く符合する結果である。さらに、非常に強い非線形性があることが確かめられた。その振舞いを理解するところまでは行っていないが、対破壊を含めたオーダーパラメータの集団励起モードとの相互作用の重要性を伺わせる結果が得られている。
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