研究概要 |
本研究の大きな目標の一つは、^3He-^4He混合液の相分離界面のごく近傍の希薄相にトラップされた^3Heの正イオンの移動度を測定することである。そこで先ず液体^3He中の正イオンの生成を試みた。負イオンに比べて正イオンを安定に作ることは難しい。タングステンの鋭い針に高電圧をかけて電界イオン化法により生成するが、mK以下の超低温領域で使用するため発熱が無視できる様に生成量を制御する必要がある。最適なタングステン針を得るために様々なエッティング条件を試みた結果、約500Vの低電圧で1pA程度の電流が安定に得られる様になった。次に最も簡単な飛行時間測定法で液体^3He中の正イオンの移動度測定を行なった。零磁場中での温度依存性が従来知られているln(1/T)的なものと一致することを確かめた後、全く測定のない12Tの強磁場中での測定を行った。その結果、常流動相から超流動A_1相,超流動A_1相から超流動A_2相への移転に伴う移動度の変化がはっきりと観測された。しかも後者の温度変化は前者の場合の約2倍で、A_2相では磁場に平行および反平行の両方のク-パ-対が形成され準粒子密度が半分になったことで良く説明できる。常流動相では、約29気圧の高圧,超流動転移直前の3mKの温度において不思議な磁場依存性を示すことが判った。すなわち移動度は6T位まで5%程度上昇した後12Tまで10%以上の減少を示した。しかも低磁場での上昇は温度の上昇と共に消失した。前半の移動度の上昇は、^3He準粒子と正イオン表面の^3He核スピンの磁気散乱が低温・強磁場で制御されたと考えられるが、後半の減少については全く不明でさらに詳細な測定が必要である。
|