研究概要 |
多量の^3Heを含む^3He-^4He混合液は1K以下で相分離し、1mK以下の温度では超流動^3Heが^3He希薄相の上に浮いた状態となる。この相分離界面は界面張力が小さくて理想的に平坦な界面であり、超流動相がP波であるという特徴を有しているが、そこでの準粒子の散乱についての実験は全く報告されていない。そこでまず混合液をパリスティックな温度まで冷却するため、接触面積が大きくて効率の良い熱交換器を開発した。この熱交換器は白金と銀の焼結体の厚みを薄くして有効表面積が極力大きくなるよう工夫し(全表面積は350m^2)、液体^3Heを約170mKまで冷やすことに成功した。次に^3He準粒子を生成・検出するために、4mm,12mmのNbTi超伝導線を半円形に張ったvibrating wireを装備する内径4mmの半球型頭部を持つ銀製密閉容器(Blackbody Radiator)を開発した。この容器は直径0.2mm,長さ1mmのインピーダンスの大きいオリフィスを持ち、準粒子・準正孔ビームをある程度収束させ界面に浅い角度(20度)で入射するように作られた。12mmのvibrating wireを大きく振動させて生成された準粒子ビームがオリフィスから放出され、界面でアンドレーエフ反射されて再び容器に戻ってくるのを4mmのvibrating wireにより容器内の温度上昇として観測する。測定は界面の有無に対してこの温度上昇の相異を求めることになる。最も平坦な超流動^3HeのB相の自由表面に対して試みたところ、エネルギーギャップより高いエネルギーを持つ^3He準粒子による量子アンドレーエフ反射が、実験的に初めて直接的に観測された。自由表面で反射されてBlackbody Radiatorに戻ってくる粒子は放出量の5%で予想に反し小さかった。その原因は、戻ってくる準粒子がオリフィスの壁で反射されかなりの部分を失うためであり、オリフィスの形状が重要であることが判った。
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