強磁性体の微粒子では、すべての原子磁石の方向がそろった状態(強滋性状態)が基底状態であるが、その磁化の方向は、形状異方牲や結晶異方牲によって定まる。磁化の方向に依存するエネルギーは局所的な極小値をとり得るので、それが最小の極小でなくても、初期条件によっては磁化はその方向に落ちつく。局所的極小からの脱出は、熱的励起によるか、あるいは量子トンネルによる。前者の過程は強く温度に依存し、後者では温度によらない。そのために、極低温では後者が観測可能になる。本研究の目的は、強磁性微粒子の集合体を磁場中に置いた後、磁場を切り、その後の磁化の時間変化を核滋気共鳴を用いて追い、温度、粒子のサイズ、粒子間の相互作用の有無、粒子の置かれた媒質、等に緩和時間がいかに依存するかを調べることである。 本年度は2カ年計画の初年度として、測定機器の購入整備と試料作成技術の開発を行った。核磁気共鳴装置(200MHz帯)は液体ヘリウム温度で順調に作動し、バルクの試料の信号を用いて測定系全体の調整をおこなっている。予備的実験として真空島状蒸着法によって作成した平均粒径20Åのコバルトの微粒子の核磁気共鳴信号を液体ヘリウム温度で検出することを試みているが、試料の量の不足のためにまだ成功に至っていない。
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