研究概要 |
炭素で出来た球殻状クラスター、フラーレンをベースに新しい物性、機能性を探索するため、新物質の開発と物性評価を行い以下の成果を得た。 1.フラーレン二量体の合成 高圧合成法によってC60二量体の合成に成功した。これによって、高圧合成法が、二量体から1次元ポリマー、2次元ポリマーなどを選択的に合成できる優れた方法であることが明らかになった。合成されたこれらのポリマーは加熱によってモノマーC60に戻るが、この反応の熱分析を行った。それによって、すべての重合体はモノマーC60よりも安定であること、さらにこれらの重合体間のエネルギー差は0.01eV/atom程度しかないことを明らかにした。炭素のみから出来たフラーレン重合体が非常に狭いエネルギー範囲の中で多くの多型を有することは極めて特徴的で,sp2/sp3結合のフレキシビリティーの高さを顕著に表している。 2.C60多元複合化合物の研究 2-1:NH3K3C60における反強磁性秩序化 超伝導-絶縁体転移はフラーレンに限らない極めて普遍的かつ基本的な重要問題である。昨年度、超伝導が期待される化合物NH3K3C60において超伝導が観測されない原因が絶対温度40Kにおける金属絶縁体転移にあることを見出した。本年度は、この低温絶縁相の性質を明らかにすべくミュー中間子スピン緩和(μSR)実験を行った。その結果、NH3K3C60の低温相は反強磁性絶縁体であることが明らかになった。この結果は、フラーレン化合物において電子相関効果が重要な役割をしていることを初めて示す結果である。 2-2:超伝導体(NH3)xNaA2C60(0.5<x<1,A=K,Rb)の高圧効果 昨年度合成されたアンモニアを含んだ上記の超伝導体が、異常な臨界温度と格子定数の関係を示すことから、本系がフラーレン超伝導のメカニズムを明らかにするための手がかりを与えると期待される。本年度は,この超伝導体の高圧効果を系統的に研究し、本系の超伝導が単純に分子間距離でスケールされないことを明らかにした。
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