最近空間構造を有する量子スピン系の新奇な物性が話題になっている。特に一次元系における磁化の量子化は新しい重要な問題である。本研究において、我々は、二重鎖構造をもつ新しい量子スピン系KCuCl_3、TlCuCl_3、NH_4CuCl_3などを発掘した。この系の相互作用の構造は、反強磁性スピン梯子に対角相互作用を加えたものと見ることもできるし、また、結合交代系に次近接相互作用を加えたものともみなすことができる。最近の理論によれば、この系では、量子効果によって基底状態が励起ギャップをもつスピン一重項非磁性状態であることが期待される。まず、我々は、上記3物質の大型純良単結晶を作成し、これを用いて磁気測定を行い、KCuCl_3とTlCuCl_3では基底状態が、そのようなものであることを見いだした。また、ギャップの大きさを強磁場磁化過程で正確に評価した。この2つの物質の磁気励起を調べるために広い周波数と磁場範囲でESR実験を行い、基底状態から励起状態への直接遷移を観測した。さらに中性子非弾性散乱によって分散関係を求めた。上記2つの物質と同じ結晶構造をもつNH_4CuCl_3の基底状態は、KCuCl_3やTlCuCl_3とは異なり、励起ギャップをもたず、磁気的であることが分かった。また、磁気秩序を示す磁化率の異常も観測されていない。NH_4CuCl_3の示す最も興味深い現象は、磁場の方向によらず磁化曲線に飽和磁化の1/4と3/4の位置にプラトーが明瞭に現れることである。これはイジングスピン系に見られるメタ磁性とは本質的に異なる新しい量子多体現象であり、我々が初めて見いだしたものである。NH_4CuCl_3についてはESR測定を行い、プラトーが磁場誘起ギャップによって生ずることを示した。この量子磁化過程ともいうべき新現象の発見が、本研究の最大の成果である。この量子磁化過程の微視的機構は、まだ分かっておらず、今後の重要な研究課題である。
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