液晶の電気流体力学的不安定性(EHD)に伴う対流現象に場の対称性がどの様な影響を与えるかを中心に研究を行った。液晶の特徴として初期対称性を自由に制御することが可能であり、本研究では特に、初期に分子が上下の境界面に垂直に配向する状態-いわゆるホメオトロピック配向を中心に研究を行っている。この配向状態では、層を構成する2次元平面内で連続回転対称性を許し、従って新しい自由度をEHDに持ち込む。すなわち、この連続回転対称性が連続並進対称性に加えて、新しいゴールドストンモードを生み出し、これがEHD現象を劇的に変える。その大きな特徴は、静止状態から連続転移を経て直接時空カオスに分岐することで、これが特有のダイナミックスを呈するために、ソフトモード乱流と呼ばれた。この乱流の発生は、ゴールドストンモードの発生と密接に関連しており、かつゴールドストンモードの発生を磁界によって制御できることが分ってきた。これらを基に、本年度は、この乱流の発生機構を磁界を制御しながら研究を行った。その結果、次のような点が明らかとなった。1)ソフトモード乱流の発生には臨界磁界が存在し、臨界磁界よりも強い磁界を印加すると、カオスは通常の欠陥カオスとなる。2)臨界磁界よりも低い磁界下では、ソフトモード乱流の電界閾値は磁界の増加とともに増加した。3)欠陥カオスの領域とソフトモード乱流の領域ではその電界閾値の磁界強度依存性が異なっている。4)磁界下で現れる周期構造は通常のロールとジグザグロールであるが、これらに二種類の異なった状態が存在する。それは、パターンの波数ベクトルkと液晶分子の配向ベクトル(C-ディレクター)との間に角度差をもつものと平行なものであった。ソフトモード乱流は、このkとCベクトルの相違によって安定性が失われ、発生するものとして理解される。しかし、まだその正当性は今後の詳細な研究に負うところが大きい。
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