まず多重層膜ベシクルについての測定の準備段階として、単層膜ベシクルについてアルキル鎖の長さを系統的に変えた測定を行なった。鎖長が12から15の試料についての測定の結果から、相転移に伴う熱異常が鎖長に著しく依存する事、また鎖長が12の場合はすでに多層膜についてその依存が報告されていた中間相が単層膜試料においても存在する事などが明らかとなった。解析の結果、鎖長依存性については我々がすでに熱異常のベシクル径依存を説明するために提案した修正伊豆山・阿久津理論によってほぼ統一的に理解できる事がわかった。この事はベシクル径と鎖長を適当に調整することにより臨界点に到達できる可能性が高いことを示している。そこで上で述べた結果をもとに30nm-DC_<15>PC、30nm-(DC_<14>PC+DC_<15>PC)、100nm-(DC_<14>PC+DC_<15>PC)の3種の試料について測定を行ない、最初の30nm-DC_<15>PCにおける相転移が最も臨界点に近く、近似的に臨界状態と見なせるという結果を得た。予備的な解析によれば熱容量の臨界指数αは0.5-0.7の値をもつ。現在詳しい解析を行なっており、その結果は近く報告の予定である。一方で多重層膜ベシクル試料についての測定は当初の計画よりかなり遅れている。その主な理由は上に述べた単層膜試料についての測定が予想をはるかに上回る実り多いものとなり、そのために予定より多くの時間と労力が必要となったためである。したがって多重層膜試料についての本格的測定はまだ開始して日が浅く、今後行なうべき課題として残されている
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