本研究の目的は、極低温液体中にrf電場の作用で蓄積された分子イオンのレーザー励起スペクトルを観測することによって、極低温分子イオンのスペクトル線の幅とシフトを測定し、その結果から分子イオンと媒質との相互作用を調べようとするものである。このような測定により、単一分子のスペクトルを不均一広がりをなくした状態で観測することが可能になる。 本年度は、極低温液体中に分子イオンを蓄積するための装置の開発を行った。イオントラップを設置できるスペースを有し、レーザー誘起蛍光を測定できる観測窓を備えた、超流動液体ヘリウムクライオスタットを購入した。また、これに内蔵するに適した小型イオントラップ電極とそれに付随する装置の設計・製作を行った。 これとは別に予備実験として、大気圧のヘリウムガス中で微粒子イオンをトラップする実験を行った。この微粒子は色素分子を低濃度で溶かしたグリセリン液滴で、大きさは1μm程度である。一般に真空中でイオンをトラップすることは広く行われているが、大気圧中でも適当な電場条件を与えれば数十時間にわたる長時間の浮遊が可能なことを確認した。複数の微粒子を同時に蓄積したときにはイオン同志の反発力によって微粒子は複雑な運動を行うが、1個だけを蓄積した場合には空間の1点に、孤立した状態で静止させることができた。これら微粒子に、波長532nmのレーザー光を照射し蛍光スペクトルを観測した。
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