電子運動量分光法は、軌道電子の波動関数を運動量空間において直接検証することのできる手法であり、原子分子物理学において、各種の分子軌道計算法の精度を検証する実験手段として、また、分子合成の研究過程における構造評価によるフィードバックの手法として重要な役割を持っている。本研究では、電子分光器とデータ処理系を新たに開発することにより、殆ど気相での応用に限られていた電子運動量分光法を、新しい表面分析法として表面界面の構造・電子状態の解析に適用することを試みる。 このため、これまでにマルチチャンネル型電子分光器を製作するとともに、電子分光器の電子レンズおよび偏向器の各電極の電圧供給をコンピュータ制御で行うための、定電圧電源を製作した。固体表面上において電子運動量分光法を適用する際、既に行われた気相の実験と比較できることが望ましい。このため、上記の装置開発と並行して、金属単結晶の清浄表面を用意し、冷却した表面上に気体分子を吸着させる実験を行った。 表面の清浄さと結晶構造の規則性を評価する手段として低速電子線回折を用い、Ag(111)及びPt(111)の清浄表面を作成した。さらに超高真空中で試料を10Kまで冷却できるクライオスタットを製作し、Ag(111)上にXeを1原子層吸着させ、Xeの2次元的な結晶を作成することに成功した。この手法を他の分子に適用することにより、固体表面上にその方位を固定した分子を対象にした電子運動量分光法による測定が可能となる。
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