原子分子による電子の非弾性散乱過程のひとつである電離現象において、散乱された電子と標的である原子分子から放出された電子それぞれの、エネルギーと散乱角(放出角)を同時計測法により測定すると、標的の電子軌道に関する運動量空間の情報を得ることかできる。この実験手法は原子分子物理学の分野で開発されたもので、電子運動量分光法と呼ばれている。本研究では、電子分光器とデータ処理系を新たに開発することにより、殆ど気相での応用に限られていた電子運動量分光法を、新しい表面分析法として表面界面の構造・電子状態の解析に適用することを目的とした。 本研究では、以下の実験装置および実験手法の開発・確立を行った。 1. マルチチャンネル型電子分光器を製作するとともに、電子分光器の電子レンズおよび偏向器の各電極の電圧供給をコンピュータ制御で行うための、定電圧電源を製作した。 2. 固体表面上において電子運動量分光法を適用する際、既に行われた気相の実験と比較できることが望ましい。このため、上記の装置開発と並行して、金属単結晶の清浄表面を用意し、冷却した表面上に原子・分子の凝縮結晶を生成させる実験を行った。 3. 電子運動量分光法と同様の同時計測法を用いて、多価イオンと原子の衝突による電荷移行反応後の入射イオンと標的イオンの価数相関を解析する研究や新しい多価イオンの生成法に関する開発研究を行った。
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