研究概要 |
低エネルギー衝突での電荷移行反応は,空間に局在した相互作用ポテンシャル交差点近傍で起こることが知られており,ポテンシャル交差点近傍での非断熱遷移研究を行うのに適した系である.10eV程度の衝突エネルギー領域で,多価イオンを含む衝突系での電荷移行反応について,反応確率の初期状態・終状態依存性,および,衝突径数依存性を調べるために新たに交叉ビーム法を用いた装置を建設し,測定を開始した. 交叉ビーム衝突実験装置は,電子ビーム型イオン源・質量選別器(Wien-filter)・イオンエネルギー選別器・超音速ノズルビーム・イオン検出器によって構成されている.本実験装置において用いる事の出来る多価イオンビーム強度は,エネルギー選別・発散角度を±0.5゚以下に抑えているため10^<12>A程度である.微弱な散乱生成物を効率よく検出するために,位置敏感型イオン検出器を装着したエネルギー分析器を製作し用いた.この分析器は雑音を極力避けるために,厳重な遮蔽を施した.また,位置情報を演算・格納するための新たな計測器も開発した. これらを準備した後に,衝突系O^<2+>+Heについて,重心系エネルギー10eV程度の領域で生成したO^+イオンの運動エネルギー分布を0-5゚の散乱角度で測定した.その結果,このエネルギー領域・散乱角度領域では,可能ないくつかの反応経路の中でO^<2+>(^3P)+He→O^+(^2P)+He^+5.6eVのみが起こることが確認された.このことは,やや高いエネルギー領域で測定されていた結果とも良く一致し,従来測定が困難とされたエネルギー領域でも,この交叉ビーム衝突実験装置の測定能力が十分であることが判明した.
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