本研究では大気・海洋系の数十年スケール変動の構造とメカニズム解明をめざして、観測データおよび数値モデルの両面からアプローチをおこなった。 まず、データにより全球規模の大気海洋の十年規模変動についての記述を行なった。この中でとくに、北太平洋の変動についての中緯度と熱帯の共変動性が注目される。また、これとは別に1989年冬の北半球規模の大気大循環のシフトを含む新たなモードも同定することができた。このモードは、北半球極域と中緯度の間の気圧振動で特徴づけられ、日本の暖冬、寒冬にも密接に関連する。大気大循環モデルを用いた実験により、1989年のシフトにユーラシア大陸の積雪偏差が関係していたことを示した。 海洋の変動は十年規模現象の解明の鍵であるが、海面水温以外のデ一夕は著しく不足している。米国の研究者が収集した世界中の表層0-500m水温観測電報を集約したものに気象庁、熱帯ブイ等のデータを加えて、過去48年間月別1゚格子の客観解析データセットを作成した。 とはいえ、期間の短い観測データのみから十年規模変動の力学を解明することは容易でない。本研究では、大気海洋結合モデルの長期積分により、太平洋および大西洋にそれぞれ観測されたものと似た変動をシミュレー卜することに成功した。太平洋においては観測されたような中緯度と熱帯の結合が見られる。一方、大西洋モードについては、観測とモデルの間で、主力学過程が微妙に異なるという結果を得た。この理由は、海洋表層の鉛直構造の違いに求められ、モデルの高精度化の必要を示している。しかし、この結果をもとに、十年スケールの大気海洋系振動の力学メカニズムとして、亜熱帯循環系の力学的調整と海流基本場による移流の2つの可能性を理論モデルを用いて提案することができた。また振動の振幅増大のメカニズムとして、中緯度大気海洋間のフィードバックに加えて、大気ノイズが振動モードを共鳴増幅させうることを示した。
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