地球内部での溶融による化学的分別作用を地質学的地球化学的記録から読みとるためにマントル硅酸塩MgSiO_3ペロブスカイトやMgOペリクレースの下部マントル構成高圧相鉱物と、硅酸塩メルトの元素分配を実験的に検討した。MgO-SiO_2系のForsteriteとEnstatiteの中間組成を持つ数種類の混合物を準備した。これらに、約0.5-1%の酸化物微量元素を混合し出発物質として使用した。試料カプセルはグラファイトで、LaCrO_3ヒーターおよびZrO_2圧媒体を使用した。実験圧力は、MgSiO_3およびMg_2SiO_4組成でのMgSiO_3ペロブスカイトの安定領域から、約24GPaと決定した。部分溶融を生ずるW/Re系熱電対の指示温度は、この圧力で約2500℃であった。回収した試料の研磨片に対する顕微鏡観察で安定相を同定し、化学分析は、3チャンネル波長分散型のEPMAを用いて行った。含まれる微量元素の異なる数個の実験生成物の分析結果を総合してMgSiO_3ペロブスカイトおよびMgOペリクレースのPC-IR図が得られた。MgSiO_3ペロブスカイトが示す相対的パターンは、これまでの研究結果と調和的であるが、分配係数の絶対値は有意に異なっている元素が存在する。この原因として、本研究で用いられた組成は主成分元素はMgO-SiO_2のみであり、MgOSiO_3ペロブスカイトと共存する液相中でのSiO_2濃度が、約55%と高くなっていることが考えられる。分配係数のマグマ中のSiO_2活動度に対する依存性は、高圧下でのマグマ物性に関する重要な情報であり、初期地球でのマグマオーシャンの化学進化を考察する際には考慮すべき要因であることが示された。
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