地殻最深部物質からみた大陸の進化

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08454156
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 平島 崇男 京都大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (90181156)
• 研究分担者: WALLIS S.R. 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (30263065) ; 下林 典正 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (70235688)
• キーワード: 超高圧変成岩 / 上昇パス / 中国・山東半島 / ドラマイラ岩体 / 三波川帯 / 大陸の進化

研究概要

本年度は中国・山東半島の蘇魯超高圧変成帯とイタリア・ドラマイラ岩体の地殻最深部物質の精密な岩石鉱物組織解析を継続するとともに、地殻最深部物質が地殻内に上昇したときに生じる諸現象を理解するために、日本の三波川変成帯の紅簾石石英片岩の鉱物組織解析を併せて実施した。その結果、以下のような成果が得られた。
1) 蘇魯超高圧変成帯中央部で採集したざくろ石レールゾライトの組織解析から、この岩石はマントル上部から(120km前後)、地殻下部(45km前後)まで、等温断熱的な上昇パスを示すことが判った(吉田大祐と共著で1999年度地球科学系合同大会で発表予定)。この様なパスは、蘇魯変成帯東北部の2カ所でも見つかっており(Nakamur and Hirajima;印刷中、Banno et al.,投稿中)、超高圧変成岩の断熱上昇が蘇魯変成帯において広域的に生じていることが、具体的データに基づいて初めて判った。この様な断熱的パスを実現するためには、年に10mm程度の相当はやい上昇速度を仮定しても、超高圧変成岩は周囲の片麻岩と一緒に直径大きな塊(>15km)として上昇する事が必要である(Nakamur and Hirajima;印刷中)。この結論は、地殻最深部物質の上昇メカニズムに大きな制約条件を与えた。
2) 超高圧変成岩が地殻内でどのように振る舞うかを明らかにするために、蘇魯超高圧変成帯とイタリア・ドラマイラ岩体の超高圧変成花崗岩から黒雲母花崗岩への組織変化を検討した。その結果、石英を多量に含む岩石は、塩基性の岩石に比して地殻内で容易に変形・変成し過去の情報を失いやすい事が判った(Hirajima;1999)。この観察結果は、従来の大陸の進化モデルでは見落されており、新たなモデルの構築が急がれる。
3) 三波川帯の紅簾石石英片岩の鉱物組み合わせを解析し、超高圧変成岩の一種である白色片岩が地殼内に持ち込まれたときの鉱物変化を予測する相図を作成した(平島ほかで1998年度地質学会年会で講演済み。

研究成果

• [文献書誌] Hirajima, T.: "Preservation and retrogression of ultra high pressure(UHP)rocks: case studies of UHP metagranitoids in western Alps and Su-Lu region" Mem.Nat.Inst.Polar.Res., Sps.Issue,. 53(印刷中). (1999)
• [文献書誌] Nakamura., D., and Hirajima, T.: "Granulite-facies overprinting of ultrahigh-pressure meatmorphic rocks, northeastern Su-Lu region, eastern China." Jour.Petrology. (印刷中). (1999)
• [文献書誌] Shirahata, K., Xu, Y., and Hirajima, T.: "Al-Fe3+substitution in Sanbagawa pyralspite garnet." Mineralogy and Petrology,. 61. 1-15 (1998)
• [文献書誌] 平島崇男: "超高圧変成岩の形成はいつから始まったか" 月刊地球. 20. 721-727 (1998)
• [文献書誌] Wallis, S.R., Ishiwatari, A., Hirajima, T., Ye., K., et al.,: "Occurrence and field relationships of ultrahigh-pressure metagranitoid and coesite eclogite in the Su-Lu terrane, eastern China." Jour.Geol.Soc.London,. 153. 45-54 (1997)
• [文献書誌] 平島崇男: "高圧変成岩から見た大陸地殻の進化" 地学雑誌. 106. 670-681 (1997)