研究概要 |
深海底のプレート境界(中央海嶺や沈み込み帯)では、マグマによる加熱や,沈み込み付加体の圧縮により,海底から間隙流体の湧出(熱水や冷湧水)フラックスが観測されている。湧水を化学的に特徴づける有効なトレーサーは、湧水に含まれるメタン・ヘリウム・ラドン・二酸化炭素等のガス成分である。本研究は、これらの気体成分の濃度と安定同位体比(H,C,O,N)を高精度で測定し、各気体成分のフラックスを明らかにすることを目的とする。そのために,ガスクロマトグラフ(水素炎検出器および超音波検出器)および質量分析法を用いたガス分析システムの構築を進めた。試料採取のため,以下の研究航海に参加し,湧水中の溶存気体の分析を行った。平成8年4-5月には,「しんかい2000」による沖縄トラフ熱水活動調査を行い,9月には「しんかい2000」による南海トラフ冷湧水調査,また11-12月には「しんかい2000」によるマヌス海盆の熱水調査に参加した。沖縄トラフでは,新たな熱水活動域で熱水試料を採取し,それらの化学的性質を明らかにした。南海トラフにおいては,間隙水中のメタンガス濃度とその炭素同位体比の分析を行った結果,海底表層においてメタンガスが硫酸還元反応によって酸化され,その結果生じた硫化水素ガスがシロウリガイなど生物群集のエネルギー源となっていることが,メタンの炭素同位体比変動から直接証明できた。また,マヌス海盆では,高イオウ型熱水活動域の化学的特徴を詳細に解明できた。その他,中央海嶺の熱水系についても研究を進めた。これらの成果を論文で公表するとともに,平成8年7月のAGU西太平洋地球物理学国際会議,および平成9年3月の度地球惑星科学関連学会合同大会にて報告した。
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