研究概要 |
深海底のプレート境界(中央海嶺や沈み込み帯)では、マグマ活動に伴う熱水循環や,沈み込み付加体の圧縮によって、海底から流体の湧出(熱水や冷湧水)フラックスが観測されている。湧水を化学的に特徴づける有効なトレーサーは、湧水に含まれるメタン・ヘリウム・ラドン・二酸化炭素等のガス成分である。本研究は、これらの気体成分の濃度,および安定同位体比(H,C,O,N)を高精度で測定し、湧水の化学的特徴を明らかにすることを目的とする。そのために,ガスクロマトグラフ(水素炎検出器および超音波検出器)および質量分析法を用いたガス分析システムの構築と化学分析を進めた。試料採取のため,以下の研究航海に参加し,湧水中の溶存気体の分析を行った。平成9年7-9月にかけて,「しんかい6500」による東太平洋海膨南部の海底熱水活動調査,11月には「しんかい2000」による伊豆小笠原の第2春日海山の海底火山調査,また10月には「しんかい6500」による南海トラフの冷湧水調査にそれぞれ参加した。東太平洋海膨および第2春日海山では,新たな熱水活動域で熱水試料を採取し、それらの化学的性質を明らかにした。南海トラフにおいては,間隙水中のメタンガス濃度とその炭素同位体比の分析を行った。南海トラフ資料の分析から,海底表層においてメタンガスが硫酸還元反応によって酸化され、その結果生じた硫化水素ガスがシロウリガイなどの生物群集のエネルギー源となっていることをさらに詳細に確認した。これらの成果を論文で公表するとともに,平成9年12月の米国地球物理学連合(AGU)秋季大会において発表し,海外研究者との情報交換を推進した。
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