近過去生物圏学のはじめ-水界の食物網100年史の解読

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08454165
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 和田 英太郎 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40013578)
• 研究分担者: 成田 哲也 京都大学, 生態学研究センター, 助手 (40025440)
• キーワード: 近過去生態学 / 炭素同位体比 / 窒素同位体比 / バイカル湖 / オームル / 琵琶湖 / イサザ / 堆積物

研究概要

第二次大戦以降、人類の科学技術文明の急速な発展に伴って、地域レベルでも全地球レベルでも環境問題は人類の存続にかかわる重大事となっている。この問題の解決には、過去50年間に起こった環境変化を精度よく記述する手法の開発が不可欠となる。本研究では世界各地の生物学者によって採集保存された生物標本資料について、窒素(δ^<15>N)・炭素(δ^<13>C)安定同位体比の測定を行い、近過去の環境変化や試料とした生物の食性変化を明らかにすることを目的とした。また比較のために堆積物の試料も用いた。
第一段階として、人間活動が集中的に顕在化する水質汚濁に注目した。具体的には二つの古代湖(バイカル湖と琵琶湖)の魚類標本について解析を試みた。バイカル湖では優先魚であり水産の価値も高いオームルの鱗標本を用いた。この標本は過去46年間に渡って保存されている。また琵琶湖についてはホルマリン標本となっているイサザを用いた。
結果は以下のように要約される。
(1)バイカル湖のオームルの鱗については1947年〜1993年の試料を用いた。1950年、鱗のδ^<13>C値は-21.5‰であったが、時代とともに減少し、1990年には-22.8‰となり、年間平均0.03‰の減少となった。この減少は大気中に炭酸ガスのδ^<13>Cの減少と良い一致を示した。また鱗のδ^<13>C及びδ^<15>Nは20年周期で変動することが見い出され、この点に関しては生態学的な側面から解析中である。
(2)琵琶湖のイサザのδ^<15>Nは1970年以降時間とともに増加した。この増大はこの湖に富栄養化に伴う硝酸態窒素の増加や堆積物有機物のδ^<15>Nの増加と良い一致を示した。富栄養化に伴って、湖内で同位体効果を持つ脱窒素(NO_3-N_2)が活発化してきたことが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Yoshii,K., Wada,E., 他3名: "^<13>C and ^<15>N Abundances in the Sediment Core (Ver92/1-St-10-GC2) from Northern Lake Baikai" Isotopes Environ.Health Stud.33. 277-286 (1997)
• [文献書誌] Minoura,K., Wada,E., 他2名: "Late Pleistocene-Holocene paleoproductivity circulation in the Japan Sea : sea-level control on. δ^<13>C and δ^<15>N records of sediment organic material" Palaeography,Palaeoclimatology,Palaeoecology. 135. 41-50 (1997)
• [文献書誌] Ohkouchi,N. and Wada,E.: "Secular variations of sedimentary organic δ^<13>C during the last 35 Ma in the tropical Atlantic,Site 925" Proceedings of Ocean Drilling Program Scientific Results. 154. 501-505 (1997)
• [文献書誌] 和田英太郎, 他3名: "自然生態系における炭素・窒素安定同位体存在比" RADIOISOTOPES. 46(9). 632-644 (1997)
• [文献書誌] 和田英太郎: "同位体比法は生態学で何をめざすのか" 月刊海洋. 29(7). 436-442 (1997)