気体電子回折と液晶NMRで分子構造を決定し、両者の比較から、液晶溶媒による分子構造の歪を検討した。最初にNMRデータ処理装置を設置し、液晶NMRスペクトルの読み取りを容易にした。炭素の位置を決定するために^1NMRの^<13>C-サテライトの解析または^<13>C-NMRの測定と解析を行った。ただし、いずれの方法もごく簡単な分子以外は解析が非常に難しく、報告例は極めて少ない。本研究では2-メチルチオフエン、3-メチルチオフエン、アクリル酸メチル、2種のトリクロロベンゼンの測定に成功した。測定した分子の構造パラメーターの多くは、気相と液晶溶媒中で誤差内で一致したが、一部のパラメーターには有意な差が見られた。チオフエン、フラン、ピリジンの場合には一部のパラメーターに数%の違いがあるが、メチル置換体では有意な差は見られなかった。これはメチル基が液晶の影響を弱める作用をしているためと思われる。 気体電子回折の研究では、ギ酸のアルキルエステルの(0=)C-0結合距離が誘起効果により、置換基がかさ高くなるにつれて短縮する現象を見い出した。また、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピリコン酸の3異性体では共鳴構造の違いで説明される構造上の変化を見い出した。液晶NMRの関連から液晶に興味をもち、過去に実験的データのないメソゲン(液晶構成物質)の自由分子の構造を決定した。典型的液晶であるPAAとMBBAを取りあげ、世界で最初の論文発表ができることになった。液晶性との関連を調べるために、メソゲンのコアのモデル化合物の構造決定をした。
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