本課題研究はレーザー光の位相変化により、複数ある光分解過程の割合が変化して光分解生成物の収率が変化することを目的とした。平成8年度に光分解生成物のイオン画像分光を行うための装置を完成させた。このイオン画像装置は、光分解生成物を多光子イオン化して、電極で加速して一定時間飛行させ、二次元イオン検出器で観測し、二次元画像の広がりにより光分解生成物の速度分布を測定するものである。完成した装置により、生成物の電子・振動・回転状態を選別し、並進速度についても充分に分解して測定できることを証明できた。平成9年度はその光分解生成物画像計測装置を用いてオゾンおよびCH_3Iの光分解過程について調べた。オゾンの光吸収のHartley帯およびHuggins帯に相当する近紫外部の280-320nmの範囲の光で分解したときに生成するO(^3P)とO(^1D)を検出した。O(^3P)またはO(^1D)をモニターしながら、光分解の波長を掃引し、光分解収率スペクトルを得た。この波長領域では光分解過程にO(^3P)+O_2(X^3Σ^-_g)とO(^1D)+O_2(a^1Δ_g)の二つの過程がある。O(^3P)をモニターした光分解収率スペクトルには、対応する波長領域のO_3の吸収スペクトルにはない多くの構造が表れることを見出した。O_3の電子励起状態でO(^3P)+O_2(X^3Σ^-_g)とO(^1D)+O_2(a^1Δ_g)の二つの過程へ分かれる際の分子振動の影響が表れていると考えられる。これは位相制御により分岐比が変化する可能性が大きいことを示す。CH_3Iについては、304nmと608nmの二つの光で分解したときのI^+のイオン画像に表れる位相の効果を調べた。すなわち、光分解して生成するI原子の速度とその異方性に304nmの一光子光分解と608nmの二光子光分解の二つの過程のコヒーレントな相互作用が、画像に表れることが可能である。304nmのレーザー光は608nmのレーザー光を非線型結晶を通して得た第二高調波なので、2つのレーザー光の位相は相関を持つ。304nmと680nmの二つの間の光の位相を変化させてたときに、I生成物の画像には変化が表れなかった。これは、608nmの二光子光分解の吸光断面積が小さいためであろう。
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