研究概要 |
本研究では表面単分子吸着層とそれらの電子分子からなる二成分クラスターとの類似性に着目し、クラスターおよび分子吸着表面の高感度光電子分光法を開発しその類似性を検討することを目的としている。 本年度前半(4-6月)で内部部品の製作を完了した。製作した主な部品はレーザー蒸発法によるクラスターイオン生成部、高電圧パルスによるイオン引き出し部、飛行時間型質量分離部、イオン光学系、および磁気ボトル型電子エネルギー分析器である。 本年度後半は予備実験(7-9月)、および本実験(10月以降)を行った。予備実験ではまずSiクラスター負イオンの生成を飛行時間型質量分析計で確認し、生成条件の最適化を行った。さらに銅・銀などの金属クラスター負イオンについても同様に生成を確認した。続いて磁気ボトル型電子エネルギー分析器の最適化をSiクラスター負イオンのNd:YAGレーザー3倍波(355nm)による電子脱離によって行い、イオン減速による光電子スペクトルの分解能向上の効果を確認した。 本実験ではまず銅クラスターと、バッファーガスに微量混合したNO分子との反応で生成するクラスター負イオンについて観測を開始した。この系ではCu_n(NO)_m^-,Cu_n(NO^2)_m^-,Cu_nN^-といった負イオンの生成が確認された。これらのうちCu_nN^-の系ではCuN^-が3.49eVでは電子が脱離しなかったのに対し、Cu_2N^-ではクラスター生成条件によって強度の異なる2種類のバンド群が観測された。このことからCu_2N^-には少なくとも2つの安定な異性体が存在することが示唆される。このうち1種類はCu_2^-のスペクトルがシフトした形をしており、2量体の負イオンに窒素原子が弱く結合している構造をとるものと考えられる。もう一方はかなり複雑で電子親和力の高い異性体であり、窒素原子はCu_2^-に強く結合した構造をとっていると予想できる。
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