研究概要 |
本研究では表面単分子吸着層とそれらの原子分子からなる二成分クラスターとの類似性に着目し、クラスターおよび分子吸着表面の高感度光電子分光法を開発しその類似性を検討することを目的とした。 本年度前半(4-6月)で、昨年度行った銅クラスターとNO分子との反応で生成するクラスター負イオンについて観測の追試とさらに大きなサイズへの拡張を行った。この系ではCu_n(NO)_m^-,Cu_n(NO_2)_m^-,Cu_nN^-といった負イオンの生成が確認された。これらのうちCu_nN^-の系ではCuN^-が3.49eVでは電子が脱離しなかったのに対し、Cu_2N^-ではクラスター生成条件によって強度の異なる2種類のバンド群が観測された。このことからCu_2N^-には少なくとも2つの安定な異性体が存在することが示唆される。このうち1種類はCu_2-のスペクトルがシフトした形をしており、2量体の負イオンに窒素原子が弱く結合している構造をとるものと考えられる。もう一方はかなり複雑で電子親和力の高い異性体であり、窒素原子はCu_2^-に強く結合した構造をとっていると予想できる。さらに、Si_n-N_2O系、Cu_n-CO_2系に関して測定を行い、理論計算との比較も含めて検討を行った。 本年度後半は、さらに磁気ボトル型電子エネルギー分析器の分解能及び電子捕集効率の最適化を行うために、幾つかの改良を上の測定と並行して行った。具体的には(1)電子飛行管の鉛直配置化による残留磁化の効果の軸対象化、(2)弱磁場コイルの巻き密度増加による弱磁場の均一化を行った。これらの改良により分解能は0.7eVの運動エネルギーの電子について約40meVまで向上し、電子の検出効率も約一桁向上した。さらに低速電子の検出効率にも改善が見られた。現在さらに(3)液体窒素トラップによる分析器内の真空度向上を行っており、これにより真空紫外光への適用が実際に可能となると期待できる。
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