研究概要 |
本研究では凝縮相の金属-分子共存系(分子吸着金属表面、金属イオン溶解有機溶液など)の局所モデルとしての、金属原子およびそのクラスターと分子とからなるクラスターに着目し、その電子構造、幾何構造、反応性等に関する知見を得るために以下のような研究・開発を行つた。 A.レーザー蒸発法によるクラスター負イオンビーム生成―磁気ボトル型電子エネルギー分析器の開発と金属クラスター-分子二成分クラスターヘの適用 この課題においてはまず最初の一年間は装置製作と性能試験に費やした。実際の金属クラスターー分子二成分系として、Cu一NO系、CuーCO_2系、Na―NO系を取り上げ、それぞれに関して代表的なクラスター負イオンの光電子スペクトルを測定した。さらにこの実験結果を解釈するうえで密度汎関数法を用いた理論計算を行い、負イオンおよび対応する中性種の幾何構造、電子分布等に関して議論を行つた。特に後二者の系では負イオンにおいて、金属原子から分子への電子移動が起こつていることが明らかとなった。 B.金属原子-有機分子クラスターの光イオン化と理論計算によるクラスター内電子移動過程の研究 この課題では、中性の金属原子溶媒和型クラスターにおける電子移動過程を微視的に観測することを目的として、各クラスターの光イオン化敷居エネルギーを測定し、理論計算との比較から議論を行つた。具体的には、アルカリ金属(Li,Na,K)と有機分子(アセトニトリル、アセトン、アクリロニトリル)の組み合わせからなるクラスターに関してそれぞれ測定と計算を行つた。その結果、特にアクリロニトリル系では中性クラスター内で金属原子からの電子移動の結果、凝縮相におけるアニオン重合に対応した反応が誘起され、アクリロニトリル三分子が重合により環状分子となつて安定化されることが明らかとなった。
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