研究概要 |
本年度,本科学研究費補助金により,裏面照射型液体窒素冷却CCD光検出器を購入し,高感度のラマン分光システムを構築した.また現有のアルゴンイオンレーザーとヘリウム・ネオンレーザーに加えて新たにヘリウム・カドミウムレーザーを購入し,光誘起準安定状態生成用およびラマン散乱測定光源として用いた. ニトロシルルテニウム錯体試料として,シュウ酸とエチレンジアミンを配位子としてもつcis-[Ru(Hox)(en)_2NO]Cl_2・EtOH(A),cis-K[Ru(ox)_2(en)NO]・3H_2O(B),cis-[Ru(Hox)(ox)(en)NO](C),cis-K[Ru(ox)_2(en)NO](D)の4種類の新規化合物,およびそれらの^<15>NO体を合成した.これらの錯体について光誘起準安定状態の生成の有無と挙動を調べ,次のような知見を得た:(1)77Kにおける青色レーザー光照射によりすべての錯体で準安定状態が生成する;(2)水溶液の可視紫外吸収スペクトルには475nm(A),471nm(B),506nm(D)に吸収帯があり,この吸収帯の励起により準安定状態が生成されると考えられる;(3)生成量は照射光の波長に依存し,514.5nmから441.6nmの範囲では,すべての錯体で441.6nm光が最も高い生成量を与える;(4)準安定状態のNO伸縮振動の波数は基底状態に対し100〜130cm^<-1>低波数へシフトする;(5)すべての錯体で,赤色光の照射,および昇温により準安定状態は消滅する;(6)準安定状態の消滅が顕著になる温度は196K(A),213K(C),159K(D)であり,以前に我々が報告したcis-[Ru(en)_2X(NO)]X_2型錯体の準安定状態と同程度である.
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