研究概要 |
本研究の目的は、溶媒和型クラスターにおけるエネルギー散逸過程を実時間領域での測定により解明し、凝縮相における普遍的動的現象であるエネルギー散逸過程を、分子論的に理解するための基礎を構築することである。研究の初年度である本年は、以下のような結果を得た。 1。ベンゼンなどの単環芳香族化合物に適応しうるよう測定波長領域を拡張するため、研究室に既存のピコ秒チタンサファイアレーザーシステムに改良を加えた。その第3高調波(-290nm)を用いた超音速ジェット中での時間相関単一光子計測としては初めて、シアノフェニルペンタジシラン(CNPDS)およびそのH_2O錯体の時間分解蛍光スペクトルを測定した。CNPDSは、第1電子励起状態において分子内電荷移動反応を起こすことが知られていたが、今回の測定によって反応速度および錯体形成による変化を直接決定することができた。 2。縮合芳香環化合物アントラセンとH_2O,NH_3からなるクラスターについてレーザー誘起蛍光スペクトルの測定を行い、クラスター内における溶媒分子の相対運動について情報を得た。特に、溶媒が2個結合したクラスターにおいては、溶媒分子の内部回転による特異的な分裂パターンが観測された。この結果は、溶媒和型クラスターを用いた分光学的研究によって、溶質の光励起にともなう溶媒の協奏的な配向変化を、分子レベルで明確に捉える可能性を示すものであり、現在その詳細を解析中である。 3。極性溶媒中では、分子内ねじれ運動をともなった電荷移動反応を起こすことで有名なビアントリルについて、そのH_2Oクラスターにおける反応速度の励起エネルギー依存性を、ピコ秒時間分解蛍光分光法によって測定した。さらに、分子内ねじれ運動に関するポテンシャル曲面が、錯体形成によってどのように変化するかを明らかにするために、レベル-誘起蛍光スペクトルの測定を行った。
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