研究概要 |
本研究では水銀光増感反応を用いてアセチレンの三重項励起状態を生成し,外部共振器型半導体レーザーを光源としてドップラー限界の高分解能吸収分光測定を進めている。今までに、C_2H_2、C_2D_2の同位体についてスペクトルの帰属と解析を行い三重項励起状態の分子構造がcis型であることを実証した。また、パルス放電と組み合わせた時間分解過渡吸収スペクトルの測定から、内部転換寿命は回転やスピン量子数は依存しないが、重水素化物の方がノーマル種に比べて4倍長いこと等を見出している。このような同位体効果は従来の三重項励起状態から一重項基底状態への内部転換モデルでは説明できない。 この問題を理解するために、3番目の同位体として新たにC_2HDについて研究を開始した。スペクトルの帰属と解析の結果、核スピン重率の有無を含めて、従来の振電状態の帰属には問題のない事が確認された。選られた3種類の同位体の分子定数を詳細に比較したところ、C_2H_2およびC_2HDの下準位の回転定数に異常がある事を見出した。この原因として、内部転換ダイナミクスにおける同位体効果が平均分子構造にも現れているものと解釈した。したがって、C_2HDの寿命もC_2H_2同様に短いものと予想される。一方、内部転換先であるが、trans-異性体への量子力学的トンネル効果を仮定すれば、多くの実験結果を矛盾なく説明できる。今後、寿命についても同位体間の系統的な観測を行うこと、および量子化学計算の再検討が急務となった。
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