光合成反応における電子移動のメカニズムについて理論的に研究した。今年度は光合成反応中心の電子移動がL鎖選択的であることの理由を明らかにするとともに、我々の方法によって、反応中心や周辺蛋白の構造変化にともなう電子移動速度を予測するといった理論的ミューテーションの可能性を示した。 まず、光合成反応系の電子状態を記述するためにSAC/SAC-CI法を用いた。この方法は申請者が開発した基底状態および励起状態を高い信頼性をもって定量的に計算することのできる理論である。本研究期間において大規模な分子系の計算が可能となってきた。さらに、周辺蛋白のアミノ酸残基の位置に配した点電荷の作る静電場によって周辺蛋白の効果を導入した。 電子移動の要因となるトランスファー積分をSAC-CI波動関数を使って計算した。その結果、光合成反応中心のL鎖とM鎖を経由する電子移動には明らかな差が認められ、我々の方法はL鎖選択性を再現した。さらに、L鎖選択性が反応中心の構造に起因していることを示した。 次に、最近接ヘム(C-559)からスペシャルペア-への電子移動を検討した。周辺のアミノ酸残基も電子移動の経路として考慮した。その結果、ヘムから途中のアミノ酸残基を経由してスペシャルペア-へ至る電子移動のトランスファー積分が最大であることが明らかとなった。この結果は、途中のアミノ酸残基をもつ蛋白のミュテーションが効果的であることを示唆している。また、実験結果の存在するいくつかのモデル系において電子移動速度の実験値と理論的予測を対応させた結果、極めてよい対応を示しており、我々の方法によって理論的ミュテーションが可能であることが示された。
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