本年度は、電気化学用アプリケーションセットを購入し、STM・AFMシステムNano Scope IIに装着し結晶成長を観察するシステムを立ち上げた。購入したセットは、水系使用であったので、有機溶媒中でも観察可能なセルに改造した。実際に金属基盤上に長鎖脂肪酸を吸着させた系の水中における構造をAFMモードで観察を行い、良好な画像が得られることを確認できた。本年度はまた、三連電子ビーム蒸着装置を購入し、既存の蒸着装置に装着し電極を作成するシステムの立ち上げを行った。既存の装置をかなり改造したために、真空などの諸問題が発生したため、立ち上げがかなり遅れているが、本年度末には電極作成が可能となり、実際に有機超伝導体の結晶が成長する過程をその場観察する予定である。 ET_2I_3塩では、α、β、θ、κなど多くの結晶形が存在する。本研究の目的は結晶作成条件を変化させ、これらの結晶形により成長初期過程がどのように変化するか解明し、結晶成長を制御することである。本年度我々は、ETの誘導体であるDOETのラジカル塩において、選択的にβ型の結晶形が生成することを見いだした。しかも、結晶中では、立体障害となりうるバルキーなジオキ酸基がβ型における隙間の中に入る特異的な構造を取ることを明らかにした(現在投稿中)。また、EDDH-TTPのラジカル塩においては、選択的にκ型の結晶構造を取るものがあることを見いだした。この系においては、ET_2Cu(SCN)_2の結晶成長と異なり、クラウンエーテルなどを必要としないので、その結晶成長過程を観察するためには最適な系と言える。
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