研究概要 |
本年度は、周辺共役系に2個の窒素原子を有するジアザ[18]アヌレンとして知られるポルフィリン環に注目し、種々のポルフィリンd^8遷移金属錯体(Ni,Pd,Pt)を合成して、それらの分子構造と芳香族性との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。特に、1)中心金属の種類。2)共役系を構成するポルフィリン環の数、3)ポルフィリン環の相対配置の違いなどの観点から、芳香族性の尺度となる誘起環電流効果を比較検討し考察した。その結果、一連の(Ni,Pd,Pt)錯体系列において、Ni錯体が著しく環電流を減少させるのに対し、Pd錯体及びPt錯体はフリーベース体と同程度の環電流効果を保持していることがわかった。また、ポルフィリン環をビニレン基により架橋して多量化しても、ポルフィリン環単核の環電流効果の程度は本質的に保持されており、3量体は2量体の立体配座を保ちながら拡張された系であることがわかった。しかしながら、この場合導入された金属イオンの性質を反映し、Ni<Pd<ptと重金属錯体となるにつれてその分子構造における立体配座が順次拡張共役系を遮断する方向、すなわち、ビニレン架橋基を軸に捻れ、各ポルフィリン環が階段状配座で存在する傾向のあることが判明した。このことは、分子全体の平面共役による電子的安定化がビニレン架橋基プロトンとポルフィリン環周辺のエチル基の間の立体反発による不安定化の中で達成されることに起因しており、PdやPt重金属錯体においては、電子的安定化を十分に相殺しうるほどにポルフィリン環単核の芳香族性が十分に高いことを示した事実として注目される。さらに、ポルフィリン3量体の錯体異性体間での比較検討により、錯化位置の違いによる環電流効果や電子的性質に顕著な差は現われず、中央ポルフィリン環の錯化金属の性質が分子全体の性質を支配する傾向のあることが示唆され、今後のさらなる検討課題である。
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