生体系では『分子認識』を基礎として生体膜輸送系や酵素反応系などが構築され、高度に洗練された生体機能を発現している。これら生体系に匹敵する精密認識を可能とするレセプター機能分子を人工的に構築することは、特異的な生体機能の発現メカニズムを分子のレベルから理解するとともに、新しい分子機能を化学合成するために不可欠な重要研究課題である。 従来より認識機能分子の化学合成に関する研究は、クラウンエーテルやシクロデキストリン、さらにカリクスアーレンなどを中心に活発に展開されてきた。しかしこれらの多くは、個々の研究グループが蓄積してきた知識や経験に頼って分子設計がなされ、既知反応を組み合わせた多段階プロセスを経て合成されており、非経験的な分子設計法の確立や簡便な化学合成法の開発が切望されている。 本基盤研究では、高次認識機能分子の化学合成を目指した『非経験的』分子設計法と『高効率』化学合成法の開拓を図り、以下のような成果を挙げた。 1)計算化学的手法を活用した認識機能分子の設計:12員環を母体とするアームド・マクロサイクルズにおいて、計算化学に基づき金属配位性側鎖を選択すると、ナトリウムイオン選択性レセプターを分子設計できることを実証した。 2)生体触媒と有機金属試剤を併用した認識機能分子の合成:生体触媒反応や有機金属反応により得た光学活性ピリジン誘導体を構造単位として、特異的な銀イオン選択性を示す非環状レセプターの合成に成功した。 3)一段階環化反応によるアニオン認識機能分子の開発:4つのピリジニウム環を含む環状カチオンの一段階合成法を確立し、トリカルボン酸アニオンをはじめとする多官能生体基質のための選択的なレセプターの開発を行った。
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