研究概要 |
当該年度の研究は,研究計画に従いスタッキング能力を有する配位子の合成から始めた。目的配位子の構造を簡単に説明すると,「平面状の2核形成配位子を上下に重ねそれぞれを有機的に架橋したもの」と,表現することができる。これを合成するために,我々は[架橋部分を作り,そこに配位サイトを導入する]方法と[2核形成配位子を作った後,架橋を行う]2通りの反応経路を考慮して実験を行った。このうち目的配位子の生成が確認されたのは前者の合成法であった。合成を確認はできたものの合成収率は10%以下と低く,また十分な精製法の確立も未だできておらず,引き続き収率向上を目的とした合成法の改善に取り組む必要がある。また,基本となる2核形成配位子の錯生成について評価を行った。配位子と酢酸銅(II)一水和物もしくは塩化銅(II)との反応では,弱アルカリ性の条件下で淡緑色の微結晶,一方臭化銅(II)との反応では青紫色の微結晶が得られた。緑色結晶の方は,銅イオンの定量から銅の配位子が1:1の化合物を形成していることがわかり,また水や他の有機溶媒に不溶性であることからポリマー構造をとっているものと推定される。この場合,2種類のポリマーが考えられる。一つは2核化配位子がジグザグ上に架橋していく横方向の鎖状構造であり,もう一つは2核錯体自体が層状に積層したスタック型の鎖状構造である。現段階ではいずれのタイプの錯体が生成しているかを決めるには至っていないが,もしスタック型の錯体が生成しているのであれば,我々の目的とする化合物の比較対象として重要である。一方紫色の錯体は,近年いくつか報告されているμ_4-オキソ架橋の4核錯体ではないかと推定される。これは他の報告された錯体同様,反応溶液中に存在する臭素イオンが架橋配位子として働き,4核構造を安定化していることが推定され,対イオンによる構造の相違が現れており非常に興味深い。現在,ワークステーションを用いてこれらの錯種の分子軌道計算に取り組んでいる。
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