研究概要 |
当年度は,配位子精製法の確立及びこれによる多核銅(II)錯体の合成を中心に,研究計画に従い実験を進めた。連結部位にm-キシレンを有する当初予定の配位子(1)は,合成収率の改善にいまだ至らないため,n-ブチレン(2),p-キシレン(3)を連結部位に有する配位子の合成を試みた。配位子2,3は,立体制約を受け難いことから1に比べると良い収率で合成することができた。しかしながら,副生成物の分離が未だできておらず,引き続き収率向上を目的とした合成法の改善に取り組む必要がある。次にこれらの配位子を用いた多核銅(II)錯体の合成を行った。配位子と酢酸銅(II)-水和物とのメタノール中での反応により,いずれの配位子からも緑色の難溶性沈殿が生成した。銅イオンの定量により,配位子と銅イオンが1:2の組成比で存在していることが示された。また,室温での磁気モーメントは1.4〜1.6B.M.を示し,銅イオン間に反強磁性的相互作用が働いていることから,これらの錯体はいずれも多核構造を有していることが予想される。残念ながらX線結晶構造解析に適した単結晶が得られないため,ワークステーションを使用したab initio計算による最適構造と電子状態の推測を試みた。構造最適化は,近似として4スタック分の分子データを作成し,SYBYL分子力場計算によって一次の最適化を行った後,3-21G^<(*)>計算を適用した。その結果,配位子1は強いスタック効果を誘発させるものの,2では熱力学的安定性から,そして3では立体的制約から直鎖構造が最適構造であることが示唆された。
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