本研究は、蛋白質中の金属イオン結合サイトに見られる基本的なアミノ酸配列に関して、ペプチドを配位子とする錯体化学の基礎をつくること、及び、人工の電子伝達蛋白質を合成すること、の2点を企図した。そのため、1)ジンクフィンガーモチーフZFの亜鉛サイトCys-X_n-Cys-Y/Zn^<2+>、及び、加水分解酵素の亜鉛サイトHis-X_n-His/Zn^<2+>のペプチドを配位子とする亜鉛・水銀錯体を合成、次いで、これら錯体の溶液のEXAFSとROESYデータをもとに分子軌道法・制限分子動力学計算・距離幾何学計算を行い、ペプチド錯体の構造を明らかにすることを計画した。又、2)ポルフィリンを鋳型に持つペプチドポルフィリンを合成し、その会合性を検討することを計画した。以下、達成した成果を列挙する。 1) Cys-X_2-Cysは蛋白質の最小キレート単位である。水素結合まで含めればCys-X_2-Cys-A-B/M^<2+>も最小単位である。本研究では[(1)Hg]:1=Boc-CPLCGA-OMを合成・構造解析を行い、この化合物のCPLC部分の配座が[(2)Hg]:2=Boc-CPLC-OMeのそれと同じγターン対掌体であることを明かにした。 2) [(2)Hg]は極性溶媒中でBu^tS^-と反応して[(2)(Bu^tS)Hg]^-を生成する。本研究ではこの分子の骨格構造はZFやRubの局所配座と同じであることを明らかにした。 3) Cys-X_2-Cys/Zn^<2+>とCys-X_2-Cys-A-B/Zn^<2+>を得るための有機合成と錯体合成を系統的に発展させ、[(2)Zn]及び[(1)Zn]を得た。これらは共にZnS_2O_24 配位を基本とするが5配位の混入が有り得ることを実験的に見出した。又、置換反応を試みた。温度変化実験を含む精密EXAFS解析と配位結合に関する分子軌道法計算、及び、配位と配座の運動に関する分子動力学計算を行い、化合物はZnS_2O_2の4配位を基調とするが5配位幾何構造(tbp)も存在し、溶媒が周囲に多数存在する場合は5配位となる可能性が高いことを計算的に確認した。 4) プロテアーゼ活性中心はHis^i-Glu^<i+1>-X_2-His^<i+4>/Zn^<2+>で表わされる。本研究は最小アミノ酸配列であるBoc-Glu-TI-His-OMeを選び亜鉛錯体の合成を行った。本系は溶液中で平衡系であるがROESY実験から平均値として_lH-_lH距離を求め、距離幾何学計算と制限分子動力学計算を遂行した。得られた幾つかの構造を平均化すると、加水分解酵素中のGlu-X_2-His/Zn^<2+>と極く近い構造となることを明らかにした。 5) マルチヒスチジンペプチドをピケットフェンスとする人工蛋白質α_4-(PepA_<18>)_4-MTAPP:PepA=EEALEKHEKALEKHEKAGを設計・合成した。これをホストとしてプロトヘムをゲストに取り込み、ポルフィリン会合体を形成することに成功した。次いで、ヘリックス性と会合体分子量を検討し、α_4-(PepA_<18>)_4-ZnTAPPは二量体を形成すること、ヘミン共存下三量体へと変化することを明らかにした。本系は2種類の金属ポルフィリンからなる12のポルフィリンを含み、人工蛋白質で最大のポルフィリン集積を示した。
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