本研究では主としてモリブデンおよびタングステンを含む硫黄架橋三核および四核金属クラスター錯体の多様な性質を追求した。これまでの硫黄架橋金属クラスター錯体の研究の主眼は、置換反応・酸化還元など、金属に注がれていたが、ここでは架橋硫黄の反応性についても注目した。 不完全キュバン型硫黄架橋モリブデンク錯体のアセチレンとの反応より硫黄-炭素結合を持つ錯体を取り出し、構造決定・物性測定を行った。また、対応する硫黄/酸素架橋不完全キュバン型タングステン錯体に関して、架橋硫黄部位のアセチレンとの反応性を配位子により調節できることを見いだした。 硫黄架橋錯体の架橋硫黄部とアセチレンおよびその誘導体との反応による硫黄-炭素結合の生成が契機となり、ジフェニルジチオレンおよびその類縁化合物を配位子とするいくつかの新規化合物を見いだし、モリブデン、タングステンおよびクロム錯体のフォトクロミズムを含む光化学へと発展させることができた。また、私たちの年来の研究テーマである「金属取り込み反応」に関する研究も発展させ、モリブデン-ガリウム、モリブデン-アンチモン、およびモリブデン-カドミウムの混合金属クラスター錯体の合成・X線構造解析・物性測定を行うことができた。 ニトリロ三酢酸を配位子とする硫黄架橋キュバン型タングステン-ニッケル混合金属クラスター錯体の合成・X線構造解析に成功し、ヒドラジン配位子とする錯体を単離した。 硫黄/酸素モリブデン錯体への配位によるジエチレントリアミンの脱プロトン化を明らかにした。また、イミノ二酢酸を配位子とする不完全キュバン型硫黄架橋クラスター錯体の4種の異性体を単離し、その内の3種のX線構造解析を行うと共に、異性化が起こることを見いだした。
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