1.数マイクロメータの厚さ、あるいはそれ以下の厚さの薄膜は、情報記憶用磁気材料・アモルファス合金、各種センサー、光学部品の表面コート、メッキ膜などの重要な機能を担っている。この様な薄膜物質の機能を理解し、さらなる性能向上をはかるためにはその構造解析が重要であるが、そのためのよい構造解析手法はあまり存在しない。本研究の目的は、注目元素の周囲のミクロ構造解析法として有力である広域X線吸収微細構造(EXAFS)を薄膜材料にも応用可能とするための開発を行うものである。 2.厚い基盤上の薄膜のX線吸収スペクトルを測定することは通常の透過法では不可能である。そこで、本研究ではX線の吸収によって放出されるAuger電子の検出を行う転換電子収量法の装置を開発した。試料は大気圧Heガス中に置き、転換電子電流を測定することでX線吸収スペクトルを得る。試料の大きさは約1cm角である。 3.測定は高エネルギー物理学研究所放射光実験施設、BL-7CおよびBL-12Cにて行った。スパッター法により形成した単結晶表面の数十nmのSrTiO_3のSr-K端、Ti-K端のスペクトルを得ることができた。 4.各種の厚さに析出した試料を用いて、Sr-KおよびTi-K端の観測深さを見積ることができた。また試料板とSR放射光の偏光関係を利用し、極く薄いSrTiO_3のSr-K端スペクトルは膜面内方向とこれに垂直な方向で構造に差異が存在する可能性を見い出した。
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