レーザー光を吸収する有機分子を含んだ高分子フィルムに、何も含まない高分子フィルムを重ねあわせて裏面よりナノ秒パルスレーザーを照射する。この照射によって、何も含まれていなかったフィルムに光を吸収した分子が移動したことが、吸収・蛍光スペクトルから明らかとなった。以下に得られた結果を列記する。 1.レーザー光を吸収する有機固体の表面到達温度はLambert-Beerの法則により見積もって矛盾が無い。 2.有機分子が高分子表面から進入する深さは、角度可変型全反射蛍光測定によると30〜170nmであった。この深さは高分子のガラス転移温度に依存する。 3.移動した有機分子の蛍光強度の対数を表面到達温度の逆数に対してプロットすると直線になる。すなわち、現象全体としての見かけの活性化エネルギーが得られ、アントラセンの場合には高分子のガラス転移温度に依存して50〜100k J/mol程度になる。 4.レーザーのショットごとに高分子表面を電子顕微鏡観察すると、最初の1ショットではサブμmの微粒子が表面に付着することがある。これに重ねてレーザー照射を行うと、微粒子は消失し表面は滑らかになった。このような形態変化に伴って、蛍光スペクトルも変化する。 以上の結果より、光を吸収した有機分子が高分子固体内を移動する機構として、光吸収部分とその周囲の高分子の局所的熱平衡が成立し、熱的活性化による拡散過程が主であると考えられた。また、高分子表面での微結晶析出は熱拡散に比して物質拡散が甚だしい場合、すなわち気相からの凝集によるものと推測される。高分子表面の微結晶が固体内部へと拡散する過程については未解明であり、今後さらなる検討を要する。
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