研究概要 |
研究計画(補助金申請書記載)に従って研究を実行した.得られた成果と進行中の研究の報告を以下に示す. 1.五酸化バナジウム水和物層間に吸着した水分子の冷中性子散乱の測定結果の解析.25℃で単分子層吸着した水分子の拡散は隣接する吸着サイト間のホッピングによる並進運動である.2分子層以上に吸着した水の拡散には3次元的な水分子の性質が現れ,その拡散係数は三次元水の約3分の1となった.-20℃では単分子層吸着水は完全に運動性を失うが,多分子層吸着した水はこの温度では運動性を失わない. 2.H-NMRによる五酸化バナジウム水和物層間に吸着した水分子の運動性の解析.層間に吸着した水のプロトンのスピン-格子緩和時間は1msのオーダーで,試料中に微量に存在するV^<4+>がその値に大きな影響を与えた.ただし,定性的には,多分子層吸着した系は単分子層吸着した系に比べて水分子の回転緩和の活性化エネルギーが小さくなることが分かった. 3.水和酸化クロム表面に単分子層吸着した水分子の冷中性子散乱測定とその解析.30℃の二次元臨界温度を挟んで,LLB(フランス,Saclay)で冷中性子散乱を行った.その解析の結果,臨界温度以下の吸着水には殆ど運動性が無いこと,即ち固体状二次元水であることが明らかになった.臨界温度以上では,水分子のホッピング距離は短いものの,運動が明瞭に観察された. 4.分子シミュレーションによる酸化クロム表面上における吸着水の構造解析.水和酸化クロム表面の二次元吸着膜の構造を本年度購入した単分子吸着相解析システムを用いて解析を行っている.シミュレート構造は,これまで観察されたFT-IR等による実験結果によって一部裏付けられているが,未だ不十分である.
|