研究概要 |
有機金属化学における新分野の研究の一環として,高反応性有機金属化合物の合成設計と新反応およびその合成化学への応用を目指した研究の一環として,本研究では,ビニルラジカルの分子間付加反応を2あるいは3置換オレフィンの立体選択的な合成反応に利用するために,ヨウ化ビニルから発生するビニルラジカルとその受容剤となるオレフィンとの反応について検討した結果,1)ビニルラジカルの水素引き抜き反応や1,5-水素移動反応を抑さえ,分子間付加反応を優先させることができた.2)ビニルラジカルはアルキルラジカルと同様に求核的なラジカルであり,ラジカル中心にアルキル基ような電子供与性基を導入したり,受容剤として電子不足なオレフィンを用いることにより,分子間付加反応の効率が向上することがわかった.3)2位に置換基を有するヨウ化ビニルとオレフィンとの反応では,(E)体の2置換オレフィンが選択的に得られた.反応温度による選択性の変化はほとんどなかった.4)1および2位に置換基を有するビニルラジカルの付加反応は,トリブチルスタナンやトリス(トリメチルシリル)シランからの水素引き抜き反応と同様な立体化学で進行する.しかし,その選択性は水素引き抜きの場合よりもずっと高いものであった. ビニルラジカルを経由する反応では,一般に出発物質の立体化学が保持されないことは,遷移金属触媒を用いるカップリング反応と異なり,出発物資を立体選択的に合成する必要がない利点である.また,ラジカル反応では多くの場合,官能基の保護は必要がない.ビニルラジカルの分子間付加が2あるいは3置換オレフィンの立体選択的合成に有効であることを明らかにした.
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